30. 現場補修を仕上げる

パネルの継ぎ目の補修はまだ続きます。

パネルの継ぎ目の補修後、絵を描いていく

壁材を塗り広げ、下地の白を差していきます。さすがに色を馴染ませるためにベース色にはスプレーガンを使用、わずかの隙間を補正するためにここまで塗り広げています。

次にペン入れを開始。ペン入れと言ってももちろんペンではなく筆で書きます。

空の部分は実は難易度が高くなります。オブジェクトが密集しておらず継ぎ目が目立ちやすいからです。
実際に絵を描いている時も空で苦労しましたが、今回の補修でもやっぱり空で苦労する羽目になりました。

細かい部分に色を塗り重ねます。薄く、何度も塗り重ねてちょっとずつ周りの色に合わせていく作業です。少しずつ、完成していきます。

苦労した空と違って、個々のオブジェクトに対する補修は「できあがってきたなあ」という実感とともに着実に前へ進むので気持ちも晴れ晴れしてきます。

24時間乾燥させて、最後に水性のバーニッシュを全体に塗ります。

こうして、現場での補修を終えました。絵に関しては本当の完成です。しかし、まだ仕事は残っています。

最後の完成披露にて、松本零士氏がこの壁画にサインを入れことになっています。
ここが絵描き屋の奥ゆかしいところですが、細井工房のサインは実はこの壁画の裏面に入っています。パネルは壁として収まりましたので、パネル裏面を確認することは多分今後一切ないでしょう。裏方として真っ当なサインの場所です。

サインに関しておもしろい話があります。ある大物の画家と一緒に壁画仕事をしたときのことです。

その大物画家は仕事をある程度終えて帰り際に当然のようにサインして帰りました。私はまだ数カ所描くべき場所があったので残って仕事をしていたんですが、すると、クライアントの会社の偉いさんがやってきて、私にこう依頼したのです、「大先生のサインを塗りつぶして消しておいてください」

そうなんです。いくら大先生の大物画家でも、その仕事に関しては作品色を消して、クライアント企業の名前だけを表に出さなければならなかったんです。

私はドキドキしながら大物画家のサインを塗りつぶし、今回のこの補修と同じように、そこにはじめから何もなかったかのように周りの色と合わせて補修を行いました。

という話はさておき、これで絵は完成しましたが、最後のお披露目の時に松本先生のサインが入り、その後に溶剤系のバーニッシュを全面塗布して、それでやっとすべての完了となります。

この補修にやってきたのは2012年の2月末。お披露目は7月の予定です。
最初に話を伺ってから2年の歳月が流れています。

本当の最後は7月ですが、ここで一旦完成ということで、皆様と挨拶を交わし、帰路につくことになりました。

松本零士と作品の壁画

 

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