装飾としての浮世絵模写

小さな洒落たバーカウンターの背面に浮世絵を拡大して模写した絵画パネルを取り付け、装飾として用いた例です。

バーカウンターの背面に大きく拡大した浮世絵の模写を飾っています。浮世絵の持つ造形や色彩の美しさが高級感を与えています。

このような図柄を装飾に用いるとき、昨今ではプリントが使われることが多いでしょう。

単純に色と形だけが必要な簡単な装飾ならプリントで十分です。
我々は絵描きなので、プリントで済ませることには多少の残念感を持っていますが、プリントで十分な軽い仕上げと、絵画である必要がある重厚な仕上げとの差別化はあってしかるべきですし、目的に応じて技法を使い分けるのは当然のことです。
さて我々としてはCGも仕事のうちの一つですので、プリント原画の調整などについても承っていますが、ここでは手描きの拡大した模写作品についての報告になります。

浮世絵や錦絵を拡大模写するにあたっては、原画の輪郭線をどう扱うのかがポイントになります。
ひとつは、原画のままの比率でただ拡大することです。
そうすると絵の中での線のバランスは原画通りに保たれますが、拡大の規模によっては線が太すぎたり、端の処理が美しくなかったり、原画の小ささが元で生じる問題が発生します。
そこで、拡大して模写するときには輪郭線の一部や着物の柄など精密な部分を、画面の大きさに応じた精密さに補正します。これにより上品さや精密感が保たれますが、模写としては不完全なものになります。
しかし装飾としての模写は、模写が第一義の目的ではないため、それでいいのです。

原画が小さな浮世絵版画だった場合、原画には木版独特の擦れや、わざと薄く塗った技法が用いられていることがあります。
これらを再現するとあまりにも嘘くさいので、絵画的な薄塗りやぼかしの処理をすることもあります。ますます原画からは遠ざかりますが、絵画の完成度は上がります。
装飾に使う絵画は高級感や付加価値をもたらすことが目的であるため、よりよいアレンジを施すことは吝かではありません。

金色も重要なポイントです。プリントでもゴールドを別刷りすることは可能ですが、絵画が持つ金色や経年の金箔の雰囲気はプリントでは不可能、逆にプリントでそれを実現しようと思ったらそれこそ大手印刷メーカーとの大きな規模のコラボレーションプロジェクトが必要になります。ニュースになるレベルですね。

絵の具の金色はメーカー各社からいろいろと出ていまして、それぞれ特徴が異なります。高級な金泥を使うことを除外すれば、金色の選択や塗り技法は経験で積み重ねたノウハウに頼ることになります。それなりの自信を持っています。

こうして、ちょっと高級なバーカウンターの背面絵画が出来上がります。

同じ図柄の同じような色だとしても、絵の具の発色とプリントクロスの質感は雲泥の差。その違いがどこに起因する物であるのかは専門家にしか分からないかもしれません。しかし、違いそのものはお客さんの直感や印象としてはっきりと認識されることだけは間違いありません。

 

初出:2010.08.16

細井工房

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