自治体のお堂内。もともとあった地獄絵図の壁面が古くなったために新たに描き直すことに。
現存する地獄絵図を参考に新しい構成をデザインし、パネルに制作。
かつて伝統的な絵画の世界では、師匠が作り出した美しい形や優れたデザインを弟子が書き写して踏襲したり、先人の編み出した形状や技法を後の画家が取り入れていくことで受け継がれ、より洗練されていくという芸人や職人のような世界でした。
実際、古い絵画からある部品の形を書き写して新たな作品に使用することは古い資料などを見ているといくつも発見できます。
近代以降はその作業を一人の画家の中で執り行うと思いますが、かつては人々や時代といった広い人格の中で行われていたのですね。
日本においても、南蛮渡来図や地獄絵図などではその傾向が顕著に表れます。同じ人や物、構図などを代々模しては新たな絵を作り出した結果、時を経て多くの似たような作品が残っているという状況になっています。
さて、京都の六道珍皇寺をはじめとする地獄絵の資料を紐解き、模しては再配置するという作業で新しい構図をデザインしました。
地獄の情景と仏様の降臨というストーリーは正しく踏襲し、6枚のパネルに制作します。
現場のお堂には専門の職人さんが取り付けました。
閻魔の裁きを受け、炎に焼かれ身体を切り刻まれるおぞましい絵です。
京都には地蔵盆という子供のお祭りがあって、このときに六道さんの地獄絵を見させられて「悪いことをするとこうなるんやで〜」と脅されるのです。
しかしよく見ると恐ろしいだけでなく、どことなく滑稽でもあり、たいへん面白い造形になっています。
最後には仏様が降臨し、救いを得るというのが地獄絵のストーリーです。
仏様の部分はやはり丁寧に描きたいところ。
美しい形をなぞる訓練を若い頃にたくさんしておくのは絵を描く職人にとって重要な事だと思います。アーティストにとって重要かどうかはわかりません。